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パワートレインの統合サーマルマネージメント 「3+1」は4を超越する

Dr.-Ing. Christian Möser | Maximilian Flack

電気自動車が1回の充電で走行できる距離は外気温度によって大きく左右される。例えば WLTPにおいて外気温度が−7°Cのときは、23°Cと比較し航続距離は60%にまで低下する。冷えた電動駆動部や車室内を温める必要がある場合はさらに低下する。一方、急速充電時はバッテリ温度をできる限り40°Cに維持する必要がある。バッテリの急速充電は、この温度条件下で最も効率がよいからである。サーマルマネージメントは走行可能距離や快適性など、ドライバーが実感する性能に決定的な影響を与え、自動車メーカーにとってはブランドイメージを決定づける要素となる。シェフラーは、電気自動車に関するさまざまなサーマルマネージメントのソリューションを包括的モジュラーシステムとして提供している。効率的で汎用性の高いコンポーネント、高度に統合されたサーマルマネージメントシステム、電動モータ、トランスミッション、パワーエレクトロニクス、サーマルマネージメントシステムを1つのユニットに最適化して統合した「4in1」ドライブモジュールなどがある。

電気自動車に求められるサーマルマネージメント

外気温度が特に高いときや低いときに1回の充電で走行可能な距離や、急速充電に要する時間という観点からみて、バッテリ駆動の電気自動車は大きな進化の可能性を秘めている。冬季の車内エアコンや温度調節、パワートレインの摩擦損失、トラクションバッテリの回生不能点までの充放電効率低下などを主な理由としてあげることができる。オイル粘度上昇によるトランスミッションの摩擦損失は伝導効率の低下をもたらす。電動ドライブの効率は内燃エンジンに比較して高く、放熱量が低すぎて車内温度調節に利用することはできない。実際の温度レベル(入口温度)も車内暖房に必要な50~60°Cには達せず、暖房手段の追加が必要となる。図1 は、外気温度が-7°Cと低温のときのWLTC (Worldwide harmonized Light duty Test Cycle) による典型的な必要エネルギーの分割例である。

図1 外気温度-7°Cのときの必要エネルギーの分割例
図1 外気温度-7°Cのときの必要エネルギーの分割例

冷えた電動駆動部を稼働温度にまで暖機することは、必要エネルギーに対してさらに大きなマイナスの影響を及ぼす。リチウムイオンバッテリの役割はとくに重要で、バッテリのリチウム、ニッケルまたはコバルト、グラファイト、銅化学成分の反応性は温度の影響を強く受ける。リチウムイオンバッテリの理想的な放電温度は20°Cである。この「適温」を下回ると効率が低下し、航続距離が短くなるだけでなく、バッテリ寿命も短縮する。したがって、外気温度が低いときは運転開始後にバッテリをすばやく運転温度にまで温めなければならない(図2)。走行中は、サーマルマネージメントによってリチウムイオンバッテリを25°C~45°Cの温度範囲に保ち、高い効率で性能をフルに発揮できるようにする必要がある。

図2 車内、バッテリ、電動モータ、パワーエレクトロニクスの「適温」
図2 車内、バッテリ、電動モータ、パワーエレクトロニクスの「適温」

一方、急速充電の場合はバッテリ温度を40°C程度にまで上昇させる必要がある。これは、リチウムイオンバッテリの内部抵抗がその温度で最小となり、抵抗損失が増しても高いCレート(充電電流と容量の関係)を実現できるからである。このとき、バッテリは低損失で高速充電される。充電場所にいる時間を最小限に留めるには、走行中にこの温度調整を行うとよい。バッテリは充電中にも温度が上昇するので、サーマルマネージメントシステムによってバッテリの熱を逃がし、最適充電温度を維持することが求められる。この温度を超えた場合は、バッテリの不可逆的な劣化を防止するために充電電流を下げる必要がある。結果として、充電速度の指標であるCレートが低下し、充電時間が長引く。とくに急速充電は、熱としてきわめて高い電力損失を発生させる。この熱は、冷却水、冷却システム、車両のエアコン等を経て大気中に放散される。充電ステーションに駐車した車両に充電することは、大気中に熱を逃がす能力が制限されるので、とくに困難な状況である。

電気自動車とその駆動部品の開発において、サーマルマネージメントの重要性が増している。適正な熱管理を行うために要求されるエネルギーとバッテリの走行距離、同様に急速充電による影響が直接関係しているためである。サーマルマネージメントは、図2に示すように、車内、バッテリ、電動モータ、パワーエレクトロニクスのさまざまな温度範囲を制御する。シェフラーは、各種車両と性能クラスにおいて顧客の要求に合わせたソリューションを提供するため、新たな多重的サーマルマネージメント手法の開発に取り組んでいる。

  • 既存システムにフレキシブルに統合できる効率的な個別コンポーネント群の供給。
  • サーマルマネージメントシステムの開発では、最適効率の連係動作が可能なコンポーネントを重視。個々の車両におけるクーリング及びヒーティングの要求は最適なアーキテクチャすなわちコンポーネントの仕様に依存する。
  • シェフラーは、システム全体の不可欠な要素として、電動モータ、トランスミッション、パワーエレクトロニクスとともに、上位階層でサーマルマネージメントシステムの開発を行っている [1]。このサブシステムは「4in1」ドライブシステム(図3)に於いて相互に最適に適合させることができる。これにより、システムコストを増やすことなく、バッテリの走行可能距離を伸ばし、急速充電時間を短縮することができる。これは、将来の電気自動車プラットフォームにとっての重要な要素である。サーマルマネージメントシステムは、高度な性能拡張性が要求され、インテリアの広さ、快適性、性能クラス、ドライブシステム構成の多様さに対応できることが必要である。

以下では、シェフラーのサーマルマネージメントシステムのコンポーネントとシステム全体の機能について、例を挙げながら解説する。

図3 シェフラーのサーマルマネージメント機能付き「4In1」ドライブシステム
図3 シェフラーのサーマルマネージメント機能付き「4In1」ドライブシステム

電気自動車向けサーマルマネージメントシステム

サーマルマネージメントの観点からみると、車両システムは主に個々の熱源とヒートシンクから構成され運転状況に応じて様々な方法で相互作用する。すなわち本来の機能に加えてクーリングまたはヒーティングの要求を満たすあるいは要請する事を行う。電気自動車の熱源とヒートシンクとは、電動モータ、パワーエレクトロニクス、トラクションバッテリ、車内であり、これに加え外気は通常、重要な熱源でありヒートシンクである。

電動モータ

「4in1」ドライブシステムに使用するシェフラー電動モータは、日常運転域に合わせて設計されている[1][2]。サーマルマネージメントによる適応温度制御で、運転条件に応じて最大4%の効率アップが可能である。同時に、電動モータの熱負荷は比較的低く、熱の直接放散が可能な直接オイルスロット冷却構造であることから、電動モータは貴重な熱源となる。シェフラーは、サーマルマネージメントシステムに於いて電動モータを電気ヒーターとして使用している。

パワーエレクトロニクス

パワーエレクトロニクスも、熱回路での追加的な加熱機能がある。シェフラーのパワーエレクトロニクスは、優れた制御によって部品の使用寿命に悪影響を与えることなく、ピーク出力の5~8%を発生させることができる。これは停車中の車両にもあてはまる。パワーエレクトロニクスは、トルクを生み出すことなくステータ電流を供給し、モータを回転させることなくステータ巻線を加熱する。ステータコアには、ヒステリシス再磁化による熱損失もある。

バッテリ

駆動用バッテリは、パワートレイン内の熱緩衝アキュムレータとして使用できる。バッテリ冷却システムの設計時は、バッテリ内の温度分布が均一となるように配慮しなければならない。バッテリパックのセルに極高温ゾーン(または高温スポット)があると、バッテリパックの最大平均温度の制限による性能低下や、アキュムレータが熱暴走に至る不可逆的な損傷を被るおそれがある。

車室内

サーマルマネージメントシステムは、車室内の温度調節に必要な温風の流れを非常に効率的に生み出すことが求められる。要件は車両クラスによって異なる。条件が多様であっても高度なモジュール性を確保するためには、乗客の車内要件に焦点を当てた更なる対策を現在及び将来的に実施する必要がある。例えば温熱面や空気流路の独立した精密制御などである。シェフラーは、サーマルマネージメント設計オプションについての認識から、車室内の温度調節対策に合わせた冷却と冷却水回路のスケーラブルなソリューションの開発に取り組んでいる。

図4 は、一般的な電気自動車向けにシェフラーが開発したサーマルマネージメントシステムの一例である。一般的にパワートレインに一つの冷却回路のみが使用されるICEを搭載した車両とは異なり、電気自動車の温度制御には通常一つのクーラント回路と一つの冷媒回路を組み合わせることによって部品の温度制御を行う。冷却水は冷却回路での熱を輸送するために使用され、液体としてのみ存在するが、冷媒回路では冷媒が液体から気体へ、またはその逆に物理的状態を変化させるときに、エネルギー放出や吸収という物理的特性を利用する。システム全体を設計し、個々のコンポーネントを特定する際、サーマルマネージメントシステムに対する全ての技術的及び快適性に向けた要求をシンプルな設計と少ないコンポーネントで成立させることがシェフラーの設計戦略である。鍵となる要素は、日常使用時に頻繁に発生しまたは高いエネルギーを必要とする、顧客及び認証に関連する動作条件である。

図4 冷媒回路と冷却水回路をもつサーマルマネージメントシステム
図4 冷媒回路と冷却水回路をもつサーマルマネージメントシステム

冷却水回路

図4(右)は、熱の伝達と緩衝を促進する冷却水回路である。この回路の中心にあるのは統合冷却システム(ICS)(図5)で、一体化されたポンプ、センサ、熱流を分配する集中冷却水制御バルブで構成される。従来のロータリーバルブ[3]とは異なり、集中冷却水制御バルブ(図6)は、電気自動車の使用事例と温度範囲に合わせて最適化されている。このような用途では、モジュール式で他システムと統合可能な制御ロジックのコンポーネントが必要となる。これを実現するために、ロータリーディスクは軸方向の設計形状で、組立高さが低くなっている。シェフラーは、ICSをモジュール構成として開発したことにより、単一プラットフォーム上でさまざまな車両クラスに対応するだけでなく、2輪駆動車や4輪駆動車にも対応できるようにした。このシステムは燃料電池車用にも拡張可能で、低温状態で燃料電池を動作させる機能にも対応する。このモジュラーコンポーネントは様々なスペースへ統合可能な高い柔軟性を持ち合わせている。内蔵ウォーターポンプ出力は、要求流量に応じて設定可能である。これは冷却水バルブとアクチュエータも同様である。温度センサと冷却水レベルセンサが一体化され、一元的接続が可能である。これらのコンポーネントは中央ユニットを介して電子制御され、LIN通信を用いて車両と通信する。個々に配置されたコンポーネントによる組立品と直接比較すると、統合冷却システムが必要とするスペースは、およそ16リットルから8.4リットルに減少する。加えてこのシステムは主にクーラントパイプやコネクターの組み付けは従来の22工程に対し6工程に削減され自動車メーカーの車両組立ライン工程の削減に寄与するポテンシャルを有している。

図5 電気自動車用の統合サーマルマネージメントシステム
図5 電気自動車用の統合サーマルマネージメントシステム
図6 冷却水を分配する集中冷却水制御バルブ
図6 冷却水を分配する集中冷却水制御バルブ

冷媒回路

図4(左)は、シェフラーのサーマルマネージメントシステムを利用した冷媒回路の一例である。統合されたヒートポンプ機能により、モータ、パワーエレクトロニクス、バッテリからの熱を利用できるほか、外気からも熱を得ることができるため、全体効率が向上する。シェフラーのヒートポンプシステムは、高い性能係数(COP)を実現している。COP値とは、生み出された利用可能な熱エネルギーと、それを生み出すために要したエネルギーとの比率である。冷媒はR744 (CO2)である。この冷媒を採用している理由は、合成冷媒R1234yf (テトラフルオロプロペン)に比較して熱力学的特性に優れ、ヒートポンプの運転条件により適しており、環境影響も少ないからである。R744は不燃性で、無害とされる。R744のGWP(地球温暖化係数)は1であり、R1234yf (GWP = 4) の4分の1 [4, 5]、R134aの1430分の1にすぎない。

機能的にみれば、R744のメリットは温度範囲の広さである。R744ヒートポンプは、外気温度が低いときでも車内を暖めるのに十分な熱負荷を供給する(図7、左)。これに対して、R1234yfシステムのCOPは0°Cで急激に低下する。-10°C、場合によっては-5°Cですら、R1234yfシステムは相当な追加コストをかけないと稼働できない。車内を快適に保つにはブースタヒータ(COP ≤ 1)が必要であり、これはシステム全体の効率を著しく低下させるので、これら高額な対策の利点は損なわれてしまう。

図7 さまざまな外気温度条件下におけるR744とR1234yfの性能係数(COP)比較
図7 さまざまな外気温度条件下におけるR744とR1234yfの性能係数(COP)比較

上記の原因は、2つの物質の熱力学的/物理的特性の違いにある。低温の外気から熱を取り出すためには、蒸発プロセスをさらに低温(したがってより低圧)で行う必要がある。10~20 barの最終蒸発圧力(コンプレッサの吸込圧力)でも、R744は−20°Cを下回る蒸発温度で使用可能である。これは外気温度が−20°Cのときでも、R744は外気から熱を抽出できる事を意味する。しかしR1234yfの場合は、こうした条件下での吸込圧力が非常に低く、コンプレッサは高圧縮比を作り出す必要があり、これでは、効率的な運転は不可能である(COP ≤ 1.0)。またこれに加えて、吸込圧力が大気圧を下回り、システム全体の気密性が保証されないおそれもある。

一方、温度が高くて冷却の必要性が最大のとき、R1234yf冷媒回路はR744と比較して体積冷却出力が低いため限界に近づく。(図7、右)。その結果、 R1234yf冷媒回路には同じ冷却出力を得る為に非常に大きなコンプレッサを選択する必要が有り、一方では車両内で必要なスペースが増大し、他方では運転条件によっては効率が低下する場合もある。最先端技術であるスクロールコンプレッサでも、急速充電時を含めてバッテリの冷却を確実に行うと同時に、車内の温度調節の要求を満たすためには、排気量を2~3倍に増やす必要がある。スクロールコンプレッサの押しのけ容積を増さざるを得ないところは、機械部品の開発課題である。

R744の理論的メリットを実装するために、シェフラーは冷媒回路全体をCO2システム固有の特長に適合させた。R744の蒸気圧曲線が異なるため、CO2冷媒回路はR1234yf冷媒回路よりも高圧力で稼働する。したがって、仕様設定が不十分なシステムでは効率が低下する。2段コンプレッサと中圧入力R744システムとの組み合わせは、工業用途や定置用途ではよく知られた方法である。シェフラーは、自動車業界で世界に先駆けてこの方法を採用し、電気自動車に対応するコンセプトを開発した。

従来の1段冷媒回路では、冷媒はコンプレッサで低圧から高圧に圧縮され、凝縮器、膨張弁、蒸発器を経て、低圧に戻される。一方、中圧プロセスでは、ガス冷却器で冷却された圧縮R744は、2段階の膨張フェーズを通過する。1回目の減圧は中圧で終了し、この段階のR744は一部が液体、一部は気体の状態で、気体成分はコンプレッサに送られる。一方残りの液体成分は、効果的に第二の回路を通過する。液体成分は別の膨張弁で膨張され、次に比較的広いエンタルピー範囲で蒸発する。その後、コンプレッサの低圧段に流入し、再び高圧レベルまで圧縮される。中圧プロセスがあることで、コンプレッサによって低圧から高圧に圧縮される質量流量成分が減少する。コンプレッサが1段の場合と比較して効率的な運転が可能となる。さらに、中圧気体によりコンプレッサ内で中間冷却が行われ、循環プロセスが更に最適化される。

ローリングピストンコンプレッサ

今日の電気自動車で使用されているスクロールコンプレッサは、構造上、追加の吸込口が非常に短時間しか開かず、中圧入力の合理的な適用は簡単ではない。シェフラーは、中圧入力コンセプトにローリングピストンコンプレッサを採用した。冷媒は、密閉された円筒形のチャンバー内で圧縮され、このチャンバー内を偏芯して支持されたロータリーピストンが内壁に沿って転がる。シリンダには外部から簡単にアクセスできるので、中圧入力はどの回転角度でも使用できる。

シェフラーは、さまざまな車両用途の要求に対応するため、中圧入力有無にかかわらずローリングピストンコンプレッサを取り揃えている。R744を使用し、従来のスクロールコンプレッサよりも高い効率を実現している。シェフラーのローリングピストンコンプレッサは、中圧入力を備え、冷却能力の要求に応じてシリンダ数を1~4まで選択可能なスケーラブルな設計で、技術仕様は以下の通りである。

  • 押しのけ容積: 4.5~18 cm3
  • 冷却能力: 最大18 kW(8,000/min時)
  • 機械駆動力: 5~13 kW
  • 電源電圧: 800V

機能の統合

冷却水・冷媒回路のコンポーネント開発に際して、シェフラーはプラットフォームベースの方式を採用している。これによりさまざまな要求に対応してシステム全体の設計をフレキシブルに行うことができる。たとえば、冷媒回路にヒートポンプ機能を装備することも、装備しないことも可能であるし、冷却システムの出力をさまざまに設定することも可能である。ICSの例が示すように、独自のモジュール方式こそシェフラーのコンセプトの優れた特長である。もうひとつの特長は、高度の一体化によって最大限にまで高められた性能密度である。これを実現する為、複数のサーマルマネージメント及び駆動装置、必要なコンポーネントを一つのユニットにまとめ、コンポーネント同士のインターフェース数を最小限化している。一例が冷媒配分プレートである。このプレートは膨張バルブ、冷媒チャンネル、セパレータ/アキュムレータなど、多数のヒートポンプ部品で構成されている。集中配置によりシステム全体を統合しやすく、多くのコンポーネントが組立済みの状態で供給され、自動車メーカーの組立コストを最小限に抑えることができる。さらに、複雑な配管やホース配置が不要となり、車両整備時のアクセス性が向上する。

4in1ドライブシステム

シェフラーは、システムを4in1ドライブモジュール(図8)に統合し、サーマルマネージメントにおける省エネと効率向上の点で抜群の可能性を実現している。このモジュールは、電動モータ、トランスミッション、パワーエレクトロニクス、サーマルマネージメントシステムを1つのユニットにまとめたものである[1]。システム全体の要求に組み付け要件を含むコンポーネントの機能を適合する事で、特定の動作条件に合わせて各種機能を最適化出来る為、パフォーマンスを犠牲にすることなくシステム構成を簡素化できる。その付加価値の大きさは、各システム(電動モータとトランスミッション、パワーエレクトロニクスにサーマルマネージメントシステムを加えた「3+1」)を単純に加算した「4」を超越している。

4in1システム設計時は、必要条件に応じて個々の性能パラメータに焦点を絞ることができる。その結果、Cセグメント車両(前輪駆動、総重量 2,000 kg、最高時速160 km、時速0~100 km加速7.5秒)の駆動システムについて、以下のようなシステム構成が可能となる。

  • 800Vトラクションモータ、スロット冷却式ステータ、出力160 kW、集中油圧供給
  • 効率を最適化した平行軸トランスミッション(軸トルク3,200 Nm)
  • 中圧レベル搭載のR744冷媒回路で最大効率を実現
  • 冷却回路システムは主に、他のサブアセンブリのハウジング内に配置
  • 炭化ケイ素(SiC)半導体を採用した集中型電子システムで、ドメインコントローラとして機能する。トラクションモータや温度調節器コンプレッサの出力段も含む。
図8 電動モータ、トランスミッション、パワーエレクトロニクス、サーマスマネージメントシステムを統合した4In1ドライブモジュール
図8 電動モータ、トランスミッション、パワーエレクトロニクス、サーマスマネージメントシステムを統合した4In1ドライブモジュール

図9 は、外気温度が−7°Cと低温時のWLTP (Worldwide harmonized Light Vehicle Test Procedure) テストサイクルにおけるシステムのエネルギー消費のシミュレーション結果である。従来の非モジュール式駆動システム(青曲線)と比較すると、シェフラーの4in1ドライブモジュール(緑曲線)には、大きな省エネ効果を生み出す可能性が示されている。その省エネ効果を利用し、トラクションバッテリを小型化して費用対効果を高めたり、バッテリのサイズはそのままで走行可能距離を延長できる。

図9 -7°C時のWLTPにおけるエネルギー消費の比較
図9 -7°C時のWLTPにおけるエネルギー消費の比較

まとめ

電気自動車が1回の充電で走行できる距離は、外気温度によって大きく左右される。従って、ドライバーが実感可能な車両特性において、サーマルマネージメントが果たす役割は大きく、自動車メーカーにとってはブランドイメージを決定づける要素となる。同時に、車両の型式認証等で要求される温度範囲や動作範囲も、WLTPの-7°CサイクルやGreen NCAPなどの新たな規則や手順によってこれまで以上に拡大している。ここでも、効率的で効果的なサーマルマネージメントシステムによるメリットは大きい。シェフラーは、電気自動車向けに多彩なサーマルマネージメントソリューションを盛り込んだ包括的モジュールシステムを提供している。冷却水回路やヒートポンプシステムを搭載した冷媒回路もそうである。部品点数を低減したシンプル設計を採用することにより、サーマルマネージメントシステムのすべての技術的要求と快適性にかかわる要求を満たすこと。これが、システムの全体設計を行って個々のコンポーネントを検討するときのシェフラーの設計戦略である。シェフラーでは、高度に統合されたサーマルマネージメントシステムを介して、効率的かつ柔軟に適用できる個々のコンポーネントから、モータ、トランスミッション、パワーエレクトロニクス、サーマルマネージメントを最適に一体化した完全な駆動システムにいたるまで、幅広いソリューションを取り揃えている。

シェフラーのヒートポンプは、最小限の搭載スペースで高い効率を発揮する。この技術の採用で、バッテリ容量を変更することなく、電気自動車の航続距離を延長することが可能となり、また一方で同等の航続距離を確保しつつ、バッテリを小型化してコストを削減することも可能となる。冷媒には環境に配慮した不燃性のR744を採用しており、各自動車メーカーに長期にわたり使用いただける仕様となっている。シェフラーは、システムレベルでさらなる効率向上を可能とする中圧工程を備えたスケーラブルで高効率な冷媒コンプレッサを提供している。シェフラーは、世界に先駆けて自動車業界でこの方式を採用した。

シェフラーは、電動モータとトランスミッション、パワーエレクトロニクスにサーマルマネージメントシステムを一体化した「4in1」ドライブシステムを開発した。サブシステム同士が相互に最適な状態でマッチングできるので、システムコストの上昇を避けながら、バッテリの航続距離を伸ばし、急速充電時間をさらに短縮することができる。その付加価値の大きさは、各システム(電動モータとトランスミッション、パワーエレクトロニクスにサーマルマネージメントシステムを加えた「3+1」)を単純に加算した「4」を超越したものとなる。

[1] Homm, M.: Fascination Electric Powertrain. Bühl: Schaeffler Kolloquium, 2022

[2] Pfund, T.: Efficient Scale-Up to Volume Production of Innovative Electric Motors and Power Electronics. Bühl: Schaeffler Kolloquium, 2022

[3] Tuncay, V.; Weiß, M.: Intelligent Thermal Management for Hybrid Powertrains. Baden-Baden: Schaeffler Kolloquium, 2018

[4] Infraserv GmbH & Co. Höchst KG (Hrsg.): Das Kältemittel R 1234yf und seine Eigenschaften.https://www.infraserv.com/de/leistungen/facility-management/expertenwissen/f-gase/kaeltemittel/spezifische-kaeltemittel/, abgerufen am 25 November 2021

[5] Großmann, H.; Böttcher, C.: Pkw-Klimatisierung. Heidelberg: Springer, 2020

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