検索語

ICE最終世代へのソリューション 世界の市場動向

Andreas Strauß | Andreas Mayer | Arndt Ihlemann | Thomas Werblinski

これまで内燃機関:ICEは「電動化」されてきたと言えるだろうが、今後はフル電動パワートレインと共にハイブリッドパワートレインが新たな標準となるであろう。そのため、次世代ICEはトランスミッションと同様にハイブリッド専用ICE(DHE)として開発する必要がある。そして、開発にあたっては将来エミッション規制の準拠と効率の最大化に重点が置かれる。シェフラーはこうした開発目標の実現に向けて、マーケットに則した2種類のハイブリッド方式、つまりシリーズ・パラレルの走行モード用の2モータP1/P3ハイブリッドと、エンジン側に電動モータを配置するP0もしくはP1マイルドハイブリッドのそれぞれに向けた技術ソリューションを提案する。

ハイブリッド専用ICE(DHE)の必要条件

これまでハイブリッドパワートレインにおけるICEの開発は多くの場合、唯一の推進力であるICEの更なる進化に集中していた。しかし今後、少なくとも欧州においては、この動きは変化していくであろう。そして近い将来、ほとんどの自動車メーカーは非電動車をマーケットに投入することは無くなり、次世代ICEはハイブリッドパワートレインシステムの構成要素となっていくことになる。既に一部の小型車メーカーではこの方針を推し進めている。この次世代ICEがマーケットに登場するのは、次期エミッション規制の「Euro 7」が施行されるタイミングと重なるとみられている。
この次期エミッション規制については当初、欧州委員会では規制の原案を準備できていなかったが、これまでの協議プロセスから次のように規制内容を想定することができる。

  1. 窒素酸化物 (NOx) と一酸化炭素 (CO) の規制値はともに引き下げられる。NOx の規制強化は特にディーゼルエンジンへの影響が大きく、COの引き下げは主にハイブリッドパワートレインで使用されるSIエンジンに影響する。他の排気成分についても、規制が設定される見通しである。
  2. Euro 6dの場合と同じく、排出ガス規制においてはリアルドライビングエミッション規制(RDE)が適用される。将来、Euro 7はRDE試験を行う領域を大きく広げる可能性があり、図1に示すように、エンジンマップ上での運転点が著しく拡大する可能性がある。
図1 Eセグメント車両のRDE走行例とエンジンマップ上の動作点
図1 Eセグメント車両のRDE走行例とエンジンマップ上の動作点

今後、全てのハイブリッドパワートレインは、来るべきエミッション規制を遵守できる仕様となっていなければならない。その対応のための具体的な技術ソリューションは、ハイブリッドの形式に応じて決まってくる。シェフラーの予想するパワートレインシナリオでは、ハイブリッドパワートレインは2030年までに世界マーケットの約40%を占め、その内訳は図2に示すように、フルハイブリッドが17%、マイルドハイブリッドが16%、そしてプラグインハイブリッドは全体の7%程度と想定している。

図2 2025年、2030年、2035年の世界総生産台数に占める各種パワートレインのシェア
図2 2025年、2030年、2035年の世界総生産台数に占める各種パワートレインのシェア

本稿では、数ある中でも特にマーケットに則した次の2種類のハイブリッドパワートレインにフォーカスする。1つはハイブリッド専用トランスミッション(DHT)をベースとするP1/P3フルハイブリッドパワートレイン(参照 [1])、そしてICEのクランクシャフト側に電動モータを接続するP0もしくはP1マイルドハイブリッドパワートレインである。

P1/P3マルチモード・ハイブリッドトランスミッション用ハイブリッド専用ICE

世界の多くの地域において、近い将来フルハイブリッドパワートレインによる電動化が進むと予想される。このような車両向けにシェフラーは現在図3に示すような、P1/P3システムと組み合わせる2モータマルチモードのDHTを開発している。このパワートレインでは、3種類の走行モードを可能とする。シリーズモードは、P1位置の電動モータEM1は発電だけを行い、P3位置の電動モータEM2は推進力を生み出す。パラレルモードは、ICEと駆動輪とが機械的に連結されることで、エネルギー変換のない高い効率ポテンシャルを有しており、中・高速走行時に有効である。電動モードは、ICEを停止した状態での低速時の電動運転と、減速時の回生をP3位置のEM2で行う。

図3 P1/P3ハイブリッドパワートレインの構成図
図3 P1/P3ハイブリッドパワートレインの構成図

マルチモードDHTの可能性を最大限に引き出すためには、DHEが必要である。そのため、このようなパワートレインシステムが対応すべき運転領域を考慮した上で、ICEの設計を行わなければならない。図4に、一般的な運転サイクルにおける駆動力とP3用EM2、および機械式減速機を備えるICEによる全負荷駆動力曲線を示す。

図4 運転サイクルにおける駆動力要求線図とP3モータEM2とICEによる駆動力
図4 運転サイクルにおける駆動力要求線図とP3モータEM2とICEによる駆動力

極端な高ギヤ比設計の場合には低速でのパラレルモード運転は困難になるが、適切な高ギヤ比であれば、定常運転や適度な加速時、上り坂走行などの運転点においては、ICEは良好な効率を示す。シリーズモード運転においても無段変速トランスミッションとの組み合わせで比較的低出力となるため、高ギヤ比は有効である。

またマルチモードDHTとの組み合わせにおいては、2種類のハイブリッド動作モード(シリーズ/ パラレルモード)用にDHEの最適化を検討する。シリーズモードでの運転点は、無段変速機との組み合わせにより効率が最大となる負荷曲線(CVT動作ライン)上となり、この曲線に沿うことでICEの燃料消費率も最適化される。この要件は最良燃費率に優れる自然吸気エンジンに適しているが、中程度の出力要求下でも比較的高回転運転が必要になる。それ故、CVT動作ラインを等パワー線上で高トルク側にシフトすることで燃費率は同等ながら低回転化が図れ、NVH性能に寄与する。(図5

図5 シリーズモード運転時のエンジン特性と回転数低減によるNVH性能改善
図5 シリーズモード運転時のエンジン特性と回転数低減によるNVH性能改善

パラレルモードの場合には、固定式ギヤのトランスミッションであることから車速によってエンジン回転数は自動的に決まる為、DHEの設計はより難しくなる。そのため、パラレルモードで適用される高効率となるエンジンマップ領域は極力広げておく必要がある。図6に示すように、過給エンジンは自然吸気エンジンよりもこの点で有利であり、広い領域で高効率の運転が可能である。しかし高負荷時のノッキング回避が必要となる。

図6 パラレルモード時の自然吸気エンジン(左)と過給エンジン(右)のエンジントルクカーブ、負荷ポイント、および効率運転領域
図6 パラレルモード時の自然吸気エンジン(左)と過給エンジン(右)のエンジントルクカーブ、負荷ポイント、および効率運転領域

理想的なDHEは、様々な運転モードに対応すると共に、最大限の効率と高度なNVH性能を両立するものであろう。以下では、諸要件を満たすことができる吸排気系ガス交換機能について検討する。手段としては、可変バルブトレイン、もしくは可変ジオメトリターボチャージャー(VTG)の適用を考える。両手段の効果の比較のために、最大出力96 kW、VTG搭載の1.5リッター量産SIエンジンにおいて検討を実施した。追加コストを抑えるために、内燃機関にはフル可変バルブトレインであるユニエアシステム(UniAir)と可変ジオメトリターボチャージャーの代わりにウェイストゲートターボチャージャーを適用した。圧縮比は12.5:1から14:1に引き上げられ、ノック防止性能改善を施し公称出力は110 kWに向上した。

以下の考え方をもとに、この量産エンジンをベースとしてバルブタイミングとバルブリフトカーブを変更した。

  • 吸気バルブ早閉じによる低負荷時のポンピングロス低減と、吸気バルブオープン時期変更による内部残留ガス割合の最適化
  • ノック防止と出力向上、および吸気バルブ早閉じによる高負荷時の効率向上と有効圧縮比の低減(ミラーサイクル)
  • 吸気バルブ早閉じで圧縮端ガス温度を下げることにより高出力時の構成部品保護性向上

その結果、大幅な高出力化にもかかわらず、燃料消費率はマップ全体で低下し、低負荷領域で特に優れた効果が得られた。フル可変バルブタイミングを採用しない場合、同等の出力向上を実現するにはVTGだけでは満足できず大排気量化も必要となるが、その場合は特に低負荷領域の出力損失が増しコスト増大にも繋がる。ミラーサイクルコンセプトのDHEをシリーズモードで運転する場合の効率は、ベースエンジンと比較して僅かではあるが改善している結果となった。このエンジンをマルチモードDHT搭載車と組み合わせ、一般的なWLTCサイクルで燃料消費のシミュレーションを実施した場合、図7で示すように、同等出力の非ミラーサイクルエンジンの燃費に比較して9.8%の低減効果が確認された。この燃費低減効果が各運転点での平均的な効率向上よりも大幅に高いのは、過渡運転状態でもその効果が発揮されるためである。このポテンシャルを引き出すためには、シェフラーのUniAirシステムのように、バルブ毎の無段階リフト高精度制御を可能とするバルブトレインが必要である。

図7 3種類の内燃機関の一般的なWLTCサイクルにおける出力と燃料消費シミュレーション(ハイブリッドシステムと車両は同一条件)
図7 3種類の内燃機関の一般的なWLTCサイクルにおける出力と燃料消費シミュレーション(ハイブリッドシステムと車両は同一条件)

ハイブリッド専用ICE(DHE)における振動減衰

ハイブリッド車両は、シリーズモード時には電気自動車に近い快適なドライビングフィールをもたらす。ドライバーはパラレルモード時にも同様の高い快適性を期待するであろう。その期待を実現する為には、ハイブリッド専用トランスミッションにはいくつかの課題がある。第1にトランスミッションの一部(発電機としての電動モータ (EM1))は常時エンジンに連結されていること、そして第2にトランスミッションの他部分の質量は従来の乗用車用トランスミッションよりも小さく、EM1上流にハイブリッド向けにチューニングされたねじりダンパが必要不可欠となることである(図8)。

図8 ハイブリッド専用内燃機関とハイブリッド専用トランスミッションの間のねじりダンパ
図8 ハイブリッド専用内燃機関とハイブリッド専用トランスミッションの間のねじりダンパ

重要なのは一般的にエレクトリックモードで走行する低負荷領域である。排ガス温度上昇のために、ICEを始動時にはその振動によりトランスミッションのギヤにかかるトルク方向が変化する可能性がある。これによるノイズ(歯打ち音)を防止するには、ねじりダンパの特性を非線形にすることが有効である(図9)。非線形の特性はレバー機構(ロッカー)を採用することにより実現可能であり、使用領域に適したダンパ剛性となる。

図9 エンジン低速域でのダンパ特性変化の影響
図9 エンジン低速域でのダンパ特性変化の影響

ダンパ設計上、特に考慮するべき現象は気筒内のミスファイア(失火)であるが、これを完全に防止することは不可能である。この場合に発生する0.5次の変動は、図10に示すように、パワートレインシステム全体の共振を引き起こし、トランスミッション入力軸の振幅が増大して著しく不均一なトルクが発生する。ダンパのトルク容量を超えると、インプットシャフトへ過大トルクが伝わり、破損する可能性がある。

Figure 10: Vibration excitation through normal engine operation (left) and a single misfire (right)
Figure 10: Vibration excitation through normal engine operation (left) and a single misfire (right)

ミスファイア時の挙動は、シミュレーションで再現することができる。ダンパにスリッパークラッチを追加することで、過大トルクを抑制できることが確認された。トルクがあるレベルに達すると、クラッチを切ってICEをパワートレインから切り離し、共振による過大トルクを防止する。このアイデアは、すでに2018年のシェフラーシンポジウムで発表されている[2]。

マイルドハイブリッドパワートレイン専用ソリューション

P0またはP1マイルドハイブリッドパワートレインは、世界中で広く浸透している。これらは既存のICEに「アップグレード」という形で比較的小規模な改修を施すことによって、更なるCO2低減を果たすための代表的な方法である[3]。そして、P2ハイブリッドパワートレインと比較するとエンジン再始動回数が少ないため、排出ガス低減において有利な一方で、次の2領域での改善が期待される。

  1. P0またはP1マイルドハイブリッドで期待できるエネルギー回収能力は、エンジンのドラッグトルクによって低下してしまう。この方式では、エンジンのデカップリングが不可能であるため、ドラッグトルク低減は重要な開発目標となる。
  2. オーバーラン(減速燃焼停止)時には、ICEを通して外気、ひいては酸素がエミッション後処理システムに送られることが避けられないため、触媒酸素量が過剰となり、エミッション性能にさまざまな悪影響を及ぼす。

シェフラーの「Smart OverRun System」と呼ばれる技術を適用することで、上記2つを同時に最適化することが可能である[4]。

このシステムは、吸気側の電気機械式カムフェイザーと、排気側の切替式ローラーフィンガーフォロワ(eRockerシステム)で構成される。P0ハイブリッドの場合は、図11に示すように、クランクシャフトと電動モータ間のベルトドライブもシステム全体の一部であり、そのベルトテンショナーはトラクションモードとオーバーランモードの頻繁な切り替えを想定して設計されている。

図11 P0 48V ISG付き3気筒エンジンへのSmart OverRun Systemの搭載例
図11 P0 48V ISG付き3気筒エンジンへのSmart OverRun Systemの搭載例

Smart OverRun Systemの構成要素

シェフラーは、エンジン油圧の影響を受けずに独立して位相調整を可能とする電動カムフェイザ(ECP)を2015年から量産している。このカムフェイザーにより、あらゆるエンジン回転数、広い温度域においてカムシャフト位相の素早い変換が可能となる。ECPの機構部は、電動モータと高ギヤ比の3軸ギヤボックスから成っており、ギヤボックスは2つのリングギヤと楕円ボールベアリングで構成される。電動モータは、ブラシレス電動モータ(ブラシレス直流、BLDC)を採用しており、従来のブラシモータと比較すると高効率で長寿命である。電動モータはその速度制御を行うコントロールユニットに接続される。電動モータに組み込まれたセンサがロータ位置を検出する。必要に応じて温度をモニターすることも可能である。ECP制御ユニットはCAN-BUS経由でエンジンコントロールユニットと通信し、カムシャフトの目標位相値を受信して現在位相を算出・制御する。位相角を変える場合は、ギヤボックス内部の歯車が電動モータの動力で高速で回転して位相を調整する。ECPは、進角変換、位相保持、遅角変換の3つの動作モードで切り替わる。いわゆる「マイナスギヤ」を使用する場合、進角時は出力軸をカムシャフトよりも速く回転させ(ミラーサイクル)、遅角時にはカムシャフトよりも遅く回転させる(アトキンソンサイクル)。また、「プラスギヤ」による変換方向の逆転もすでに確立されている。位相を保持する場合は、電動モータの出力軸をカムシャフトと等速で回転させる。

eRockerシステムでは、シェフラーは、図12のようなセントラルアクチュエータを採用し、コントロールシャフトのような複雑な伝達機構の使用を回避している。板バネが組付けられている金属製のアーム(アクチュエーションバー)をスライドさせ、切替式ローラーフィンガーフォロワのアウターレバーにあるシフトピンを押す構造になっている。シフトピンがロック機構を切り替え、内部シャトルピン機構を介して切替式ローラーフィンガーフォロワのアウターレバーとインナーレバーの連結を解除し、バルブリフトは休止される。切替機構の作動のためのリニアアクチュエータは、カムドライブユニットやシリンダヘッドの外側に取り付けられる。1つのアクチュエータで複数の板ばねを同時に動作させ、複数の切替式ローラーフィンガーフォロワを作動できる。切替式ローラーフィンガーフォロワの内部シャトルピン機構には圧縮コイルスプリングがリターンスプリングとして使われている。アクチュエーションバーの板ばねの長さや断面形状を変えて設計することで、パッケージングの制約やシリンダヘッド構造に応じてその搭載位置を切替式ローラーフィンガーフォロワに近づけたり遠ざけたりすることができる。シェフラーのeRockerシステムを搭載した最初のエンジンは、2022年春に量産が開始されている。

図12 電気機械式のセントラルアクチュエータを採用したeRockerシステム
図12 電気機械式のセントラルアクチュエータを採用したeRockerシステム

ベルトテンショナーを含む補機ベルトドライブシステムは、P0ハイブリッドで重要な役割を担っている。さらにクランクシャフトベルトプーリーデカップラーも適応可能である。直近の開発では、このP0方式の効率化のために、出力密度と伝達容量の増大に重点を置かれている。

ドラッグトルクの低減

ICEのオーバーランモード(減速時燃焼停止運転)における空気流量の抑制は、理論的には吸気側か排気側のバルブを完全に休止させることで達成できる。しかし、これだけでドラッグトルクを大幅低減できるわけではない。例えば、排気バルブ休止のケースでは、吸気時のポンピングロスと圧縮により、かなりの損失となってしまう。吸気バルブも排気バルブも休止させれば問題を回避できるが、ハードウェア側の変更が大きくなってしまう。そこで、排気バルブだけを休止させ吸気のバルブタイミングを大きく「遅角」させることにより、シリンダーへの吸気充填量を低減し圧縮圧力を下げ、ドラッグトルクの大幅な低減が可能となる。そのソリューションとなるのが、eRockerシステムとECPを併用したシステムである。

このバルブトレインの革新により、ポンピングロスをほぼ完全に排除することができるため、エンジン回転数全域にわたってエンジンドラッグトルクを大幅に低減することが可能となった。調査した排気量1.0リットルの3気筒エンジンでは、各運転点での測定において5~6 Nmのドラッグトルク低減が確認できた(図13)。数種のエンジンでのシミュレーション結果でも、最大50%のドラッグトルクの低減が得られた。

図13 排気量1.0l 3気筒量産エンジン(赤)とSmart OverRunシステム採用時(緑)のドラッグトルク比較
図13 排気量1.0l 3気筒量産エンジン(赤)とSmart OverRunシステム採用時(緑)のドラッグトルク比較

こうしたドラッグトルク低減ソリューションをWLTCサイクルで検討した場合、同じ電動モータ性能を用いてもエネルギー回生の向上が確認された。加えて、エネルギー回生の期間も増加している。1.0l SIエンジンと500 Whバッテリを持つ15 kW電動モータ(48 V)を搭載したCセグメント車両についてシェフラーが実施したシミュレーションでは、Smart OverRunシステム追加によりWLTC運転サイクル全体で回生エネルギーが9%増加することが確認された。この増加した回生エネルギーには、2通りの利用方法がある。1つは現在広く使われている方法で、加速時に電動モータが「ブースタ」としてICEをアシストするものである(図14)。しかし、マイルドハイブリッドの電力は限られているため、9%の回生エネルギー増加だけでは1.1%のCO2 削減にとどまる。

図14 加速アシストによる回生エネルギー利用
図14 加速アシストによる回生エネルギー利用

これに対してシェフラーのコンセプトは、ポンピングロスやその他の要因によりICEの効率が低下する低負荷領域を電動モータ走行によりカバーするという方法である。電動モータの連続出力は低いが、低負荷走行領域でICEの燃焼を停止し、モータ単独での走行が可能である。これはエンジンドラッグトルク低減によって実現が可能となるものである。図15で示すように、WLTCではこの状況が低速時だけでなく、ある程度の高速時においても比較的高い頻度で実現可能である。このコンセプトでは、先の9%の回生エネルギー増加によって少なくともさらに2.7%のCO2削減が可能である。この2.7%はマイルドハイブリッドシステムの効果に対してSmart OverRunシステムを追加することによって期待できる追加削減量である。

図15 低負荷走行領域での電動走行による回生エネルギーの利用
図15 低負荷走行領域での電動走行による回生エネルギーの利用

排気エミッション削減

Smart OverRunシステムはオーバーラン中に排気弁停止をすることからエミッション後処理システムの温度低下を抑制し、結果として温度変化による機械的な熱負荷を低減する。さらに重要な点として、オーバーラン中にエミッション後処理システム内への酸素流入が抑止され、オーバーランフェイズ後の触媒酸素過剰によるエミッションのスパイク的悪化を回避できる。図16は、総重量約2トンのEセグメント車両(EU6d認可)をベースとした比較評価例であるが、運転サイクル全体の積算CO排出量がベース量産車よりも少ないことがわかる。他のエンジンでは、NOx 排出量削減にて同様の効果が確認されている。ただし、これらの削減効果はエンジンのキャリブレーションやエミッション後処理システムによって異なるため、削減効果をシステムによらず定量化することは難しい。

図16 出力135 kWの内燃機関と出力15 kWの電動モータを搭載したEセグメントのマイルドハイブリッド車両の冷間始動モードにおけるのCO排出量比較
図16 出力135 kWの内燃機関と出力15 kWの電動モータを搭載したEセグメントのマイルドハイブリッド車両の冷間始動モードにおけるのCO排出量比較

将来想定されるEuro 7規制においては、低外気温(-7°Cスタート等)や短時間のオーバーランも多用するアグレッシブ運転パターンでも、通常パターンと同様に厳しい規制強化が予想される。これは冷間始動時とオーバーラン時のエミッション性能が全体的なエミッション性能に大きな影響をもたらす事を意味する。電熱触媒コンバータを使用することで、冷間始動直後のエミッションについては大幅な削減が可能であるが、それ以外の暖機後サイクル中では効果が見られない。Smart OverRunシステムを使用することによりオーバーランおよび再始動直後の触媒酸素濃度上昇を抑止できるため、図16のグラフの黄色線で示しているように始動後から測定モードの終わりまで終始CO排出量を低減できる。また油圧に依存しないECPによって始動直後からの動作ストラテジーも適用可能となり、触媒早期活性も可能となる。また、Smart OverRunシステムと電熱触媒コンバータとの併用の場合にも双方のメリットは干渉することなく得ることが可能となる。

前述のアドバンテージに加えて、高速位相変換が可能なECPにより過渡運転時の内部EGRを緻密に制御することができる。燃費上の効果については、各エンジン側の様々な要因によって左右されるが、シェフラーでの数多くのシミュレーションから、燃料消費の削減率は平均で1%強と推測している。また、アトキンソンサイクルの自然吸気エンジンをハイブリッド車に使用するとき、この高速位相変換はもうひとつのアドバンテージとなる。特に、エンジン始動時には最適なバルブタイミングへ素早く変換できるため、再始動性を損ねることなく吸気バルブの遅閉じが可能となる。また油圧に依存しない電動システムにより低温から高温まで適用可能である。

システム全体としてのCO2排出量削減の効果

Smart OverRunシステムと前述の電動モータ走行の動作ストラテジーをCセグメントの車両(1345kg)に適用すると、図17に示すように、WLTCモード想定のシミュレーション結果では5.2%という大幅なCO2削減を得られると推測される。ベースとした車両は1.0リットル3気筒ターボエンジンと15 kW電動モータを搭載したP0マイルドハイブリッド車で、ここではSmart OverRunシステム搭載によるCO2 量の変化を示している。削減量のうち最も割合が大きい2.7%は、eRockerシステムと電動カムフェイザーによってドラッグトルクを大幅に削減し、低負荷走行を電動モータ走行に置き換えた効果である。非Smart OverRun車両ではオーバーラン中の触媒への酸素供給に対して必要となる再始動時の触媒酸素パージ用リッチ噴射が不要となることでさらに1.3%のCO2 削減となる。また高速位相変換が可能なECPによる内部EGR制御でさらに1.2%の削減が可能となる。仮に、P0ハイブリッドでなく同等出力の電動モータをクランクシャフト側に搭載すれば(P1)、ベルトドライブの損失がなくなることでさらなる削減に繋がるであろう。

図17 P0マイルとハイブリッド、1.0l 3気筒ターボエンジン搭載のCセグメント車両におけるSmart OverRunシステムによるCO₂削減効果
図17 P0マイルとハイブリッド、1.0l 3気筒ターボエンジン搭載のCセグメント車両におけるSmart OverRunシステムによるCO₂削減効果

まとめ

近い将来、世界の多くのマーケットに導入されるパワートレインの大部分は電動化されることから、次世代ICEはハイブリッドパワートレインシステムの一部として考えられなければならない。 こうしたDHEにおいても、RDEを含む「Euro 7」のような厳しい基準をクリアしなければならない。そのためシェフラーは、世界で最も普及しているハイブリッドシステムであるDHTベースのP1/P3ハイブリッド、及びICE直結の電動モータを持つP0およびP1マイルドハイブリッドに向けて新しいエンジン技術を開発した。

P1/P3向けDHEは、2つの走行モードに対応し最適化する必要性を示した。「シリーズモード」では局所的な最良燃費率の更なる低減、「パラレルモード」ではより幅広い量燃費率領域における効率向上が求められえる。既存の量産エンジンをベースにした検証結果から、シェフラーはシングルステージターボとフル可変バルブトレインシステムUniAirを組み合わせることで、これらの要件達成と高いコストパフォーマンスを両立できることを実証した。スリッパークラッチを一体化したねじりダンパの設計を最適化することで、このようなパワートレインに求められる耐久性や快適性をあらゆる運転条件下において実現している。

マイルドハイブリッドパワートレイン向けには、電動式アクチュエータで制御するeRockerシステムとECP、最適化された補機ベルトドライブの組み合わせからなるSmart OverRunシステムを提案した。この技術パッケージにより、一般的なP0/P1マイルドハイブリッドパワートレインと比較して5%以上のCO2削減が可能となり、排気エミッションについても大幅な削減が達成できる。

DHEは、快適性においても環境負荷低減の点においても優れた成果をもたらし、150年にわたるICE開発の歴史の集大成であると言える。

[1] Eckenfels, T. et al.: Innovative Hybrid Transmission With Electric DNA. Bühl: Schaeffler Kolloquium, 2022

[2] Faust, H.: The Transmission: Even in the Future, the Most Efficient Link Between Powertrain and Road. Baden-Baden: Schaeffler Kolloquium, 2018

[3] Eckenfels, T. et al.: 48-Volt Hybridization: A Smart Upgrade for the Drive Train. Baden-Baden: Schaeffler Kolloquium, 2018

[4] Werblinski, T. et al.: Valve Train System for P0 and P1 Hybrid Powertrains. 30th Aachen Colloquium Sustainable Mobility, 2021

[5] Himsel, F.: Schaeffler eRocker System: New Concepts for Switchable Finger Followers. Baden-Baden: Schaeffler Kolloquium, 2018

[6] Haas, M.; Piecyk, T.: Valve Trains for Implementing Innovative Combustion Strategies. Baden-Baden: Schaeffler Kolloquium, 2014

[7] Mayer, A. et al.: Combined Miller-Atkinson Strategy for Future Downsizing Concepts. In: MTZ (2018), No. 7-8, pp. 60–66

[8] Demmelbauer-Ebner, W. et al.: The New 1.5-Liter Four-Cylinder TSI Engine From Volkswagen. In: MTZ (2017), No. 2

[9] Kehr, D.; Wolf, D.: Airpath Flexibility – Unlocking the Full Potential of the UniAir System. Baden-Baden, Schaeffler Kolloquium, 2018

[10] Scheidt, M. et al.: Valvetrain Solutions for Flexible Engine Families – Highest Optimization. 42nd International Vienna Motor Symposium, 2021

ページを共有

シェフラーは、お客様のご利用を最適化するために、クッキーを利用しています。本ウェブサイトを引き続きご利用いただく場合、お客様はクッキーの利用に同意されたことになります。 さらに詳しく

同意